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田亀源五郎個展の感想めいたもの」で、自分は「SMも拷問も超苦手」と書いてますが、先日「それはもしかしたら、看護婦時代に見た事が原因かも…」と、ふと思いました。(注:現在は「看護師」と呼ばれてますが、私が辞めた時点ではまだ一般的ではありませんでした。私自身が慣れてない為、敢えて「看護婦」と言ってます)
自分が働いていたのはいわゆる老人病院でした。退職して約15年経っているので、最近の現場の状況はわかりませんが、寝たきりで身動きできない人の「床ずれ」発生率はかなり高いのです。「床ずれ」は、現場では主に「褥創(じょくそう)」と呼びます。
ある日、大変広範囲の褥創ができている患者さんが入院して来ました。
このページの褥創の写真を参照していただきたいのですが(慣れない人はシンドイかもしれませんので注意)、このような“壊死部”が、左側のお尻全体に広がっている状態です。しかし適切な処置をすれば大概の褥創は解消するので、ガーゼが沢山要るな〓と思う程度で、深刻な気分にはなっていませんでした。
数日後、その患者さんの部屋が騒然となり、何事かと病室へ。すると、くだんの患者さんの腰から何か白いものが飛び出しているのが見えます。それは骨折した大腿骨(太ももの骨)でした。
左の腰全体に褥創のあると、右を下にして寝ている事が多くなります。しかしそれだと今度は右に褥創ができるので、可能な範囲で体位交換をします。
このときは介護者が忙しさのあまり、力任せにしてしまったらしく、その勢いで折れたようです。骨の状態は古い木材がポッキリ折れた感じでした…。
折れた大腿の骨の下の方が、骨盤の後ろを通り、褥創部分の肉を破って表面に飛び出している形です。普通これほど派手な骨折をしても皮膚(上皮)があれば、外に出たりしないはずです。でも褥創が発生した患者さんに皮膚はありません。保護するものもないまま、折れた骨が飛び出したんです。
かなりの出血で、当然ながら患者さん本人は相当痛いらしく、消えそうな声で「痛い、痛い〓」と言い続けていました。普段ほとんどしゃべらない人だっただけに、どれだけの苦痛なのかと思ったものです。体力のある子供は泣き叫んでいたと思います。大人でも、泣き叫ばないのはよっぽど辛抱強い人でしょう。
医師やベテランの看護婦が、痛み止めや止血など適切な処置をしていたはずなのですが、全く覚えてません。覚えているのは出血、折れて飛び出した骨、患者さんの「痛い、痛い」という声だけです。
「SMも拷問も超苦手」の理由として、最も衝撃が大きかった例を挙げてみました。思い出すといまだに朦朧とします。面白がって書いてると思われるとイヤなので努めて冷静に文章にしましたが、その場の緊迫した空気が伝わると幸いです。これだけではなく、他にも小規模な事例がありますが、とりあえず今回はこれだけにさせて頂くとして…。
積極的に苦痛を与えるのと、こちらの不注意による事故とでは意味合いが全く違いますが、肉体的な損傷や衝撃により当人にもの凄い苦痛がある、という刷り込みはされたと思います。看護婦以前はわりと平気で観ていた映画やドラマの拷問シーンが、以後少々辛くなりました。エンタテインメント系のアクションで、マッチョで頑丈な主人公(男女共)…ならまだ大丈夫なんですが、それ以外はかなり辛いです。現実の世界の話ならなおさら。
映画や漫画の暴力シーンは、実在の誰かが肉体的苦痛を感じている訳ではない、つまりその苦痛は存在しないもので、気にするのは変じゃないか…と思われるかもしれませんが、観ててシンドイのは事実なんだから仕方ないです。
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